Hastings pier

無数の繊細な鉄の杭、広大な木製床、鎮座するインド風宮殿。
この風変わりでギコチない構築物の正体は?

1700年代の産業革命によりイギリスでは、蒸気の力で鉄を大量生産する「技術」が生まれた。
同時に労働力の集中により都会の人口が3~5倍に増え、住処としての環境が悪化。
その結果、休日になると人々は都会を離れて海を目指すようになった。
潮風と水平線を求める「欲望」は海岸線をとび超えて海上にまで及び、
ついにpeir(桟橋建築)と呼ばれるこの風変わりな構築体を生み出した。

産業革命期の「技術」と民衆の「欲望」に形を与えたのはシーサイドアーキテクト(海浜建築家!??)
ユージニウス・バーチ(Eugenius・Birch 1818-1884)という技師である。
若い頃インドで鉄道をつくっていたバーチは母国に戻った後、
新技術であるスクリューパイル(鉄製のネジ杭)の上に、植民地で見聞した宮殿建築をのせた。

Peirは大流行。英国の南側の海岸地帯に100ほど建設された。
しかし弱点があった。床に使われた大量の木材である。
ヘイスティング市にあるこのpierも紫外線、暴風、火災の脅威にさらされ、幾度か瀕死の状態になった。
2010年の放火でも、ハリボテの宮殿と広大な木床は消えたが、
産業革命の技術の結晶である鉄の杭は生き残った。

その後、行政と市民と建築家の協働で2015年に再生された。
まずは潮風を浴びながら、ゆっくり先端まで歩いてみよう。
対岸はフランスだ。


景色を堪能したら180度ターンで来た道をもどる。
中央のイベントホールの外壁には焼け残りの床材が使われてる。

入り口付近のレストランにはインド風宮殿のなごりを見ることが出来る。

ビールで一休みしたら、ゲートの脇から海岸に降りpeirの下に潜り込んでみる。
林立する鉄杭は潮風と火災の洗礼を受け、朽ちたものや傾いたものもあるが、
全体として産業革命の生ける亡霊のように突っ立っている。
上を見上げると、現代の大規なイベントに応えるための電気インフラが根元から先端まで走っている。

鉄杭の寿命・・・50年
鉄杭1本の耐力・・・36ton
鉄杭の総本数・・・316本
交換されたTruss(梁)の割合・・・70%
pierの長さ・・・277m


技術と欲望に直截的な「形」を与えるために必要なものは・・・能天気と見聞と才能。
朽ち果てた亡霊に再び「気」を与えるために必要なものは・・・選球眼と見識と胆力。