出張や旅の出がけ、時間の無い中で何も考えずに偶然つかんだ 本が不幸にも
谷崎潤一郎であることが5年に1度くらいある。
そしてその後48時間は怒涛の愛憎劇に巻き込まれることになる。

巨匠の条件のひとつは「出力」の多さであるが、谷崎はそれどころではない。
句読点や段落はあるものの、1ページ目文頭から最後の一語一句まで語り手による独白に完全にモッて行かれる。
すこし芝居がかった、しかし押しの強い、それでいて弁の立つ演説に捕まった様なものだ。

つまり逃げられない。。。

読者を逃がさないTanizakiの戦略は、、、
①シームレス(つぎめなく展開する事件や場面)
②エモーショナル(登場人物が自らの感情の奴隷になっている)
③幾何学性(人間関係の配置や変化の美しさ)

①シームレスについては、20ページほど読めばすぐに予感できる。
②エモーショナルについても、50ページ読めば「感情による判断と行動」が愛憎劇のエンジンであることがわかる。
しかし③幾何学性については、愛憎のドロドロに巻き込まれている最中にはわからない。

物語の終盤になって、数人の男女が接近し離れていく構図が幾何学模様のごとく綺麗に感じられるのだ。

先日つい手にしてしまった「卍」も、二組の男女が複雑に入り乱れ、
その容赦のないドロドロの愛憎劇から逃れられなくなる。
しかし物語の収束を予感する終盤にさしかかるころになって初めて全体を覆う幾何学的な
デザインをなんとなく感じるのである。

「つぎめなくドロドロ」を最後まで一気に読ませるために、
Tanizakiが用意した戦略は万華鏡のように変化する幾何学だったのである!!

まあ、私がここで近代の文豪についてアツく語っても仕方ないのだが。。。N.F