「お前らタルんどるから、ニントク5」
「ひエーーーーっ!」
大阪のある高校のサッカー部員にとって「ニントク」は部活の厳しさの象徴であるらしい。
ニントクとは仁徳天皇陵のこと。ニントク5とはその外周を5周走ることである。
ニ・ン・ト・クの響きがどれほど怖かったかについて、元部員である知人は再三私に語っていた。
そのおかげで、私には世界最大の古墳であることより、厳しさの象徴として記憶に刻まれた。
どれだけ厳しいのか。私は長年その「厳しさのわけ」を知りたかった。
高校の運動部としてはありふれたシゴキに思われたからだ。
ふと思い立ち仁徳天皇陵を訪れた。
で、恐る恐る歩いてみた。
周長2.85Kmが長いか短いかは決め付けることは出来ない。
問題はその「幾何学的な風景の単調さ」である。
自分が周回軌道上のどこにいるのかが、時計の文字盤のように正確に把握できる。
唯一古墳の本体を望める拝所が12時の位置の役割をしており、次なる1周の重みを正確無比に走者の気持ちに突きつけてくるのだ。
これがニントクの持つ厳しさのわけである。
古墳博物館で復元模型を見ることができた。
いまはブロッコリの様に樹木が生い茂る景観も、古代には大競技場のような築造物であったのだ。
そして、そのスルドイ幾何学的輪郭線が、樹木と濠と街に挟まれた「果ての無い散策路」として現代に生きているのだ。
「あんなところ走るの大変やなー」
あー大変、大変。こわい、こわい。
なんだか私までシゴキを受けている気分だ。
N.F