これが、L字型の細長いダイニングの立面の完成形である。
わずか2.7mという限られた高さに、数種類のゆるーいカーブを入れて
共用廊下に沿って’Room’を切り取った。
外出する機会が少ない人生の先輩方を如何に「密閉感」から開放するか?
この問いに向き合った半年が、包み込みと解放を拮抗させた
このワンカットに集約されている。
オアシスは各階650㎡、5階建てのシルバーハウジングである。
全体はコの字の平面形で、内側の窓際にそって庭を囲むように
L字型の長いダイニングがある。
外出する機会が少ない人生の先輩方を如何に「密閉感」から開放するか?
これが「問い」である。
手掛かりを求めて、記憶をたどると、、、
高級老舗ホテルのリッチ感はさておき、窓と椅子を一対にしている。
内部に居ながらにして、気持ちは外部に向き、長時間座れる。
でもこれだと、窓と椅子とテーブルがあれば、ハイ終了となる。
もう一つの例。
ここは窓際の天井を低くして、廊下の途中に’Room’を切り取ろうとしている。
天井+窓+家具→’Room’という関数が見えてきたが、
まだ輪郭がボケやけている。
約50mのテラスをどうつくるか?これがこのプロジェクトの「問い」だ。
保育環境は商業施設ではないから、
大人にとっての「心地よさ」はヒントにはならない。
たとえば「ふしぎさ」という言葉を手掛かりに、テラス状の空間についての
私の記憶をたどると、ある有名な寺院が浮かんだ。
京都、蓮華王院三十三間堂。
外部のテラスはバカバカしいほど、ながい。
堂内に千一体の仏像が入っているからこんな長い形の建物になったのだが、、、
16世紀のころ、この「ふしぎな」テラスを誰かがスポーツの場にした。
それは「通し矢」と呼ばれ、一昼夜をかけて、床壁天井に触れることなく、
端から端へ矢を射て、到達した総本数を競うのだ。
正面から見ると、、、
本当に、そんなことが出来るのか??
立面図を描き起こしたら、なおさら信じられなくなった。
しかしサムライには出来たのだ。
それも一人で何千本も。その競技は大流行した。
つまりこの伝説は「ふしぎさ」の効用だといえる。
「ふしぎさ」を放置できないのがヒト。
「ふしぎ」だから妄想し、「ふしぎ」だから自らの力でその空白を埋めたくなるのだ。
この「ふしぎさ」という感覚が子供の環境にとって大切なのではないかと、
次第に実感するようになった。
京都で流行した通し矢は、江戸にも飛び火し、京都の建物が深川あたりにコピペされた。
歌川広重による深川三十三間堂の挿絵。
ここまで抽象的だと、建物何だか、塀なんだか、それさえよくわからない。
いやそれだからこそ、この絵の中にも何かヒントがあるのである。
子供に伝染する「ふしぎさ」、、、難しい問いである。