聖 痕

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数年を経て一時帰国したM.Oの眼には安らぎと野望が共存していた。彼は自分が取り組んでいる「進展しない」教会建設のプロジェクトの話しをした。進展しない要因の一端が聖痕(せいこん)という不可知の事象にあると少し自慢げに説明してくれた。

聖痕とは磔刑の時にイエスの手足についた外傷のことである。プロジェクトの先導者に聖痕が現れるかどうかが建設計画前進の鍵であると。脅威の残像としての聖痕が今なお建築とシンクロする現実があるのだとM.Oは語った。

教会建設という現実的問題と聖痕という不可知の事象の狭間で建築は無力である。しかしこの状況で建築が鍛えられ、「建築にとっての脅威」を実感できるのだ。

そして建築は自らの無力感を打破するため、「謙虚」「無心」「冴え」を獲得するに至る。

コンクリート製で歪な形をしていたらしいこの教会のその後については聞かされていない。