2009年9月アーカイブ

1st.ROOM

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サロベツ原野.jpg
ホッカイドウの北西部サロベツ原野にたたずみ目を細める。標識や小屋など点在する人工物は姿を消し、風景の全ては天空・山並み・地面に還元される。それらは天井・壁・床で囲まれた空間のようである。都市では決して見ることの出来ない人間を包む「最初の部屋」が姿を現す瞬間なのだ。それを1st.ROOMと名付けたい。

全ての建築は人間と1st.ROOMの間に介在する。だから建築は1st.ROOMへの果てしない増築行為なのだ。

人間は丸腰では1st.ROOMを生き抜くことはできない。だから山を割き、路を引き、田畑を巡らし、集落や都市をつくる。その結果、人間は物理的にも社会的にもたくさんのキグルミをまとうことになる。かくして日常からは1st.ROOMは完全に消失し、建築が不断の増築行為の延長上にあることも見えなくなる。

サロベツ原野は建築の未来を「冴えた増築案」として語り始める。ようこそ1st.ROOMへ。いざ、入室されたし。

磁力

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加藤肩吾「松前図」.jpg
日本列島の柱頭たるホッカイドウが環オホーツク全体の重量を受け留め、上方より流れ落ちる千島列島を南端で呑み込もうとしている。

そしてテシオ、イシカリ、トカチの大河川は北東部のある一点をめがけて海から逆流しているかのような勢いである。

ここには正確な地図よりホッカイドウの本性が描出されている。
18世紀末、未だ全貌のつかみ切れない大きな島を未熟な測量術で記録するにあたり、地図作者の筆はオホーツクからロシアに向かう磁力に引っ張られたかのようだ。

当時、ロシアの蝦夷進出に抗するために地勢把握が必要であった。地図作成にあたり不可視の力が働いたとしても不思議ではない。

その磁力はロシアによる脅威を表すとともに、オホーツク以北の未知がもたらすパワーをも表現することになった。


松前藩医加藤肩吾の手による「松前図」は21世紀の人間に、ホッカイドウの本性を語りはじめるのだ。都市にあっても磁力を感じる冴えを持てと。

聖 痕

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聖痕.jpg
数年を経て一時帰国したM.Oの眼には安らぎと野望が共存していた。彼は自分が取り組んでいる「進展しない」教会建設のプロジェクトの話しをした。進展しない要因の一端が聖痕(せいこん)という不可知の事象にあると少し自慢げに説明してくれた。

聖痕とは磔刑の時にイエスの手足についた外傷のことである。プロジェクトの先導者に聖痕が現れるかどうかが建設計画前進の鍵であると。脅威の残像としての聖痕が今なお建築とシンクロする現実があるのだとM.Oは語った。

教会建設という現実的問題と聖痕という不可知の事象の狭間で建築は無力である。しかしこの状況で建築が鍛えられ、「建築にとっての脅威」を実感できるのだ。

そして建築は自らの無力感を打破するため、「謙虚」「無心」「冴え」を獲得するに至る。

コンクリート製で歪な形をしていたらしいこの教会のその後については聞かされていない。